バブルリレー 2019 11 4 substitute holiday

「現代のバブルは気づかないところで起こる」
 世界の金融市場を揺るがしたリーマンショックは、
証券化バブルが原因となりました。
 さて、今の若者に、日本のバブル経済時代のことを話すと、
目を丸くして話に夢中になります。
 今の若者は、デフレ時代に育っているので、
バブル時代の話は、どこか遠い国の話か、
おとぎ話のように感じるでしょう。
 日本のバブル経済は、株価の高騰よりも、
不動産価格の高騰が特徴でした。
東京23区の価値でアメリカ全土が買えると言われたものでした。
 もちろん、給料も、ひたすら上昇して、
ボーナスも12か月分支給した会社もありました。
このようなバブルは、みんなにわかりやすいバブルだったと言えます。
 ところで、今も史上空前のバブルが起こっていると言うと、
「いったい、どこにバブルはあるのか」と言うでしょう。
 アメリカのダウ平均株価が、史上最高値にあると言っても、
グラフで見れば、ゆるやかに上昇した結果、そうなったと言えるでしょう。
 今から8年ぐらい前だったでしょうか。
欧州金融危機で、世界の金融市場は、大騒ぎになりました。
 たとえば、ギリシャ国債の10年の利回りは、一時30%を超えました。
それが、今や1%程度まで低下しています。
 これは、極端な例かもしれませんが、
欧州金融危機の時は、多くの国で、利回りが高騰しました。
それが今や、各国で、急激な低下が起こっています。
 もちろん、不景気になると、
長期国債が買われて、利回りの低下が起こるのですが、
景気の指標である株式市場は、好調です。
 気になることは、財政に不安のある国々まで、
急激な利回りの低下になっていることです。
 どうして、このようなことが起こっているのか。
各国の中央銀行による金融緩和によって、
金融市場に未曽有の資金が供給された結果、どうなったか。
 このような資金は、本来、景気対策のためにあるのですが、
副作用として、不動産市場や株式市場に向かい、
バブルを引き起こすものと言われていましたが、
今回は、債券市場に向かったのです。
これは、世界の金融市場において、「日本化」が起こったと言えます。
 日本においては、景気対策のために、金融緩和を進めましたが、
結局、景気回復にはつながらず、
さりとて、バブル経済の記憶があるので、
不動産市場や株式市場にも向かわず、
巨額の金融緩和マネーは、債券市場に向かったのです。
 山高ければ谷深し。
債券市場で、急激な利回りの低下は、債券価格の急上昇を意味します。

真夏の怪談 2014 8 23

書名 財務省の階段
著者 幸田 真音  角川文庫

「あの日は、突然、やってきた」
 昼下り、業界最大手の三矢銀行、債券ディーリングルーム。
また、やってしまった。
次長待遇の松川は、つぶやく。
緊張が続くと、トンカツが食べたくなる。
あれほど医者から控えるようにと言われたのに。
髪の毛に白髪が混じるようになってから、そう言われるようになった。
 睡魔がやってくる前に、ディスプレイが異変を告げる。
アメリカの格付け会社が、突然、米国債の格下げを行ったのだ。
そういうニュースが流れている。
 なぜだ、日本時間のこんなときに。
時計を見ながら、ニューヨーク支店の親友に電話する。
夜更かしのあいつは、まだ起きているはずだ。
 天井の汚れが気になる。
どうして、こんな時に、そんなことが気になるのか。
「米国債の損失をカバーするために日本国債も売られるぞ」と、親友は脅かす。
 あわててディスプレイを見ると、
あれほど豊富だった買い注文が一つもない。
 午前中に約定した、あの注文が最高値になってしまった。
株式市場では、よくあることだが、
ストップ高付近の売りを好んで買う投機家を嘲笑っていた俺が、
まさか、債券市場で、その仲間になってしまうとは。
 待っていたのは、ストップ安の連続だった。
翌日も気配値のままで終わってしまった。
 それは、株式市場では、時々あるが、
もし債券市場であったら、恐怖そのものである。
 深夜まで及んだ緊急会議は何も得られるものはなかった。
あの日の午前中の約定は19億円。
いや、そんな金額、はした金に近い。
わが社全体で、日本国債の保有額は100兆円近い。
 俺が辞表を書いて済む話ではない。
会社存亡の危機である。
どう考えても、何を考えても、堂々巡りして、
結局、会社存亡の危機にたどり着く。
 他に買うものがなかったのだ。
近年、資金需要が少なく、つまり、融資案件は少なく、
結局、国債を買うしかなかった。
気がつけば、国債の保有額は100兆円近くに達していたのだ。
 俺だけの責任ではない。
歴代の担当者全員の責任だ。
俺の責任は、たったの8分の1だ。
 それでも10兆円を超えると気づいた時、
引き出しにあった大型のステンレス製のペーパーナイフに手が伸びてしまった。
数万人の社員と家族が路頭に迷うのか。
山一證券の破綻を思い出す。
「死人が出るまで、暴落相場は止まらない」
そんな言い伝えを思い出してしまった。
 思い出の数は少ないが、次々と甦る。
ヨチヨチ歩きの息子をはらはらと見守る。
妻は、どんな顔をしているかと、
のぞいてみると、なんと母の顔だった。
 人生の最後を迎えるにあたって、思い浮かべたのは、
妻でもなく、息子でもなく、母だった。
そして、ヨチヨチ歩きの子供は、なんと俺だったのだ。
母さん、許してくれ。
 「おい、起きろ。早く売りを出せ」
あれ、先輩、なんで、ここに。
100戦して99勝とまで言われたにもかかわらず、
非業の死を遂げた伝説のディーラーと言われた先輩が。
あの1敗がブラックマンデーだった。
 ああ、先輩が迎えに来てくれた。
「何を寝坊ている。早く売り注文を出せ」
気が付けば、ディスプレイの時計は22時。
二日間も消えていた買い注文がディスプレイにあふれている。
この時間はロンドン先物市場か。
指が痛くなるほど売り注文を出す。
 相場の反発は激しく、もっと待てば、利益も出たはずだ。
冷静になった市場が、巨額の資金を吸収できるのは、
米国債しかないことに気がついたのだ。
 翌日の役員会議。
「松川君、売りを出すのが、早かったね」
「今日の相場なら、わが社に利益が出ている。後で詳しい報告書を出してくれ」
 自殺まで考えた俺の苦労も知らずに、
専務は社長(頭取)へ階段を登り続けている。
 「一将功成って万骨枯る」
そんな言葉を松川は思い出した。
 高校生の時、漢文の先生が、
「一人の将軍が手柄を立てるときには、
無数の人々の生命が犠牲になっている」と黒板に書いているのを思い出した。
(引用、以上)
(注)上記の小説を引用しながら、よりインパクトがあるように改変しました。
 これを債券ディーラーが読んだら、どういう反応を示すのか。
「冗談じゃない。その問題で、心配で心配で夜も眠れないのに」
 この本は、短編の「経済ホラー」で構成されていますが、
「金融市場の窓」を読むと、背筋が寒くなるでしょう。
 猛暑の日々が続いていますが、
この小説を読めば、当分、涼しい日が続くと思います。



















































































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